三まいのおふだ   文:カトウヒロ吉  絵:三浦佳奈恵

三まいのおふだ 文:カトウヒロ吉 絵:三浦佳奈恵

むかしむかし、ある 山でらに、
おしょうさんと こぞうさんが おりました。

こぞうさんは おしょうさんの いうことを きかない 
やんちゃぼうず でした。
ほとけさまの おそなえものを かってに たべたり、
そうじも せずに ひるね したり。
おきょうも おぼえないで らくがきしたりと、
おしょうさんは ほとほと てを やいていました。

あきになると、
おてらの うら山には たくさんの くりが みのり、
むらの こどもたちも まいにち くりひろいに でかけていきます。
それを みていた こぞうさんも、
くりひろいに いきたくて いきたくて しょうがありません。

「おしょうさま、おしょうさま。おらも くりひろいに いきてえだ。」
「いかん いかん。うら山には やまんばが いるんじゃぞ。
 やまんばに くわれたら どうする?」

おしょうさんは、いっしょうけんめい とめましたが、
こぞうさんは いうことを ききません。

「やまんば なんか こわくねえ。いかせてけれ おしょうさん。」

こまりはてた おしょうさんは、
とうとう こぞうさんを くりひろいに いかせてやることにしました。
「しょうがない、いかせてやる。
 やまんばに おうて、こわいめに あえば、
 おまえも いうこと きくように なるじゃろう。
 でも これを もっていけ。」
おしょうさんは こぞうさんに 
三まいの おふだを わたしました。

「こまった ときには これに たのめ。」
こぞうさんは、おおよろこびで くりひろいに でかけていきました。

うら山には、たくさんの くりが おちていました。

こぞうさんは、つぎから つぎへと くりを ひろって、
どんどん どんどん やまの おくふかくに はいっていきました。
ふと きがつくと、あたりは うすぐらく なっていました。

「お、おらは、や、やまんば なんか こわくねえぞ。」
こぞうさんは、すこし こわくなって きました。

「そろそろ かえるべ。」
こぞうさんが かえろうと したとき・・・

「おやおや、めんこい こぞうじゃな。」

こえの したほうを みてみると、
ひとりの おばあさんが たっていました。

「てらから きたんか?」
「んだ。くりひろいに きただ。」
「どれ、おらの うちさ こい。なんぼでも くりっこ ゆでてやるぞ。」

こぞうさんは おばあさんに ついていきました。

おばあさんは、たくさんの くりを ゆでたり やいたりして、
たべさせてくれました。
おなかが いっぱいに なった こぞうさんは、
ねむくなって うつら うつらと ねむってしまいました。
こぞうさんが よなかに めを さますと、
しょうじの むこうから へんな おとが きこえてきました。

しゃーこ しゃーこ
しゃーこ しゃーこ

こぞうさんが おそるおそる のぞいてみると、
くちが みみまで さけた やまんばが 
ほうちょうを といでいるでは ありませんか。

しゃーこ しゃーこ
しゃーこ しゃーこ

「や、やまんばだあ・・・おばあさんは やまんばだったあ・・・。」

こぞうさんは なんとか にげようとして、
やまんばに いいました。

「ばあさん ばあさん。おら べんじょに いきてえだ。」
「いんや ならん。そこでしろ。」
やまんばは べんじょに いかせてくれません。

「う、う、うんこ だから、こんな ところでは できん。
 べんじょさ いかせてけれ。」
「うるさい がきめ。
 にげられんように なわさ つけてやるから いってこい。」

やまんばは、こぞうさんの こしに なわを しばって、
べんじょに いかせました。

こぞうさんは、べんじょに はいると、
こしの なわを ほどいて はしらに むすびつけ、
おしょうさんに もらった おふだを 一まい はりつけました。

「おふだよ おふだ、おらの かわりに へんじ してけれ。」

こぞうさんは おふだに おねがいすると、
べんじょの まどから いちもくさんに にげだしました。

「こぞう、まだか?」
と やまんばが きくと、
「まあだ、まだ。」
と こぞうさんの こえで おふだが こたえます。

「こぞう、もう いいか?」
「まあだ、まだ。」
「こぞう、でたか?」
「まあだ、まだ。」

なんど きいても、へんじが きこえるだけで
こぞうさんは べんじょから でてきません。
やまんばは おこって、なわを ぐいっと ひきました。
すると、「まあだ、まだ」と へんじする 
べんじょの はしらが とんできました。

「こぞう! にげたなあ!」

「こぞう! まてえー!」

やまんばが おいかけてきます。
やまんばの あしの はやいこと はやいこと、
あっというまに ちかづいてきて もうすこしで おいつかれそうです。

「まあーてえー!」
「ひゃあ、つかまるー。くわれるー。」

こぞうさんは、二まいめの おふだを だして、
「おおきな すな山、ではれい!」
とさけんで うしろへ なげました。
すると、ふしぎなことに 
あっというまに おおきな すなやまが できました。
やまんばが すなやまを のぼろうとしても、
すなが くずれて のぼれません。

のぼろうとしては ずるずる おちて、
のぼろうとしては ずるずる おちての くりかえしです。

やまんばが ずるずる ずるずる しているあいだに、
こぞうさんは いっしょうけんめい にげました。

だいぶ にげたと おもった ところに 
また やまんばが おいついてきました。

「こぞう! まあーてえー!」
「ひゃあ、つかまるー。くわれるー。」

こぞうさんは 三まいめの おふだを だして、
「おおきな 川、ではれい!」
とさけんで うしろへ なげました。

すると こんどは おおきな 川が できました。

やまんばが、およいでは 川に ながされ、
およいでは 川に ながされ しているあいだに、
こぞうさんは いっしょうけんめい にげました。

ようやく、こぞうさんは おてらに つきました。

どんどんどん
どんどんどん

おてらの とを たたきながら こぞうさんは さけびました。
「おしょうさん おしょうさん、おきてくんろ。
 やまんばが やってくる。くわれちまうだー。」

どんどんどん
どんどんどん

「はよ、あけてくんろー!」

「だから、山なんか いくなって いうたんじゃ。
 どれどれ ふくを きるから まっとれ。」

とおくのほうから やまんばの こえが きこえて きました。
「こぞーう! まあーてえー!」

「ひゃあ、きたー。くわれるー。おしょうさん、はやくして くんろー!」
「まてまて、もうすこしじゃ。」

「これからは、ちゃんと おしょうさんの いうこと きくから、
 はよ あけてけれー!」
おしょうさんは、ようやく とを あけて、
こぞうさんを おてらの なかに いれました。

おしょうさんは、こぞうさんを かくすと、
いろりで おもちを やきはじめました。
すると すぐに やまんばが やってきました。

「おしょうよ、おしょう。こぞうが きただろう。ここへ だせ。」
「いんや、きておらん。」

やまんばは はなを くんくん させながら いいました。
「こぞうの においがするぞ。
 おしょうよ、うそを つくと まずは おまえを くっちまうぞ。」
「まぁ まてまて。もうすぐ もちが やける。
 もちを ごちそうするで、やけるまで
 わしと ばけくらべを してみんか。」

「ふふん、おもしろい。まずは わしからじゃ。
 では おしょうよ、ばけて ほしいものを なんでも いうてみい。」
と やまんばは いいました。

そこで おしょうさんが、

たかずく たかずく たかずくよ
たかずく たかずく たかずくよ

というと、
やまんばは おてらの てんじょうに とどくぐらいに 
おおきくなりました。

おしょうさんは、このままでは やまんばに くわれてしまうと、
こんどは こう となえました。

ひくずく ひくずく ひくずくよ
ひくずく ひくずく ひくずくよ

やまんばは、どんどん どんどん ちいさく なっていきます。
それでも おしょうさんは やめませんでした。

ひくずく ひくずく ひくずくよ
ひくずく ひくずく ひくずくよ

とうとう やまんばは まめつぶぐらいの おおきさになりました。

「いやあ、みごとな もんじゃ。どうれ・・・」
そういって おしょうさんは、やまんばを ひょいと つまみあげると、
おもちに くるんで ぱくっと たべてしまいました。

それからというもの、山でらの うら山には やまんばは でなくなり、
こぞうさんも おしょうさんの いうことを 
ちゃんと きくように なったということです。

おしまい

三まいのおふだ 文:カトウヒロ吉 絵:三浦佳奈恵


ページトップへ